第24回坂田賞授賞理由

第24回坂田記念ジャーナリズム賞授賞一覧(敬称略)

【第1部門新聞の部】(スクープ・企画報道)
   坂田記念ジャーナリズム賞(2件)
    毎日新聞社「ヒバクシャ」取材班
    代表=大阪本社社会部副部長・宇城 昇(うじょう・のぼる)
     長期連載「ヒバクシャ」
 
   朝日新聞大阪本社「子どもと貧困」取材班
   代表=生活文化部長・斎藤利江子(さいとう・りえこ)
 シリーズ企画「子どもと貧困」
 
   同特別賞(1件)
読売新聞大阪本社「老い 2016」取材班
代表=編集局次長・滝北 岳(たききた・がく)
シリーズ連載企画「老い 2016」


 【第1部門放送の部】(同上) 
  坂田記念ジャーナリズム賞(2件)

   毎日放送「映像’16」取材班
         代表=報道局番組センターディレクター・橋本佐与子(はしもと・さよこ)    
           「がんとお金〜夢の薬の光と影〜」 
 
    NHK大阪放送局取材班
      代表=報道部チーフプロデューサー・三村忠史(みむら・ただし)  
         NHKスペシャル「ある文民警察官の死〜カンボジアPKO23年目の告白」 

   同特別賞(1件)
    朝日放送報道局取材班
      代表=ABCリブラ/ディレクター・漁野紗希(りょうの・さき)
         報道番組「勇(いさ)鯨(な)〜揺れる太地町〜」        
 

    【第2部門新聞の部】(国際交流・国際貢献報道)  
    
    該当なし   


  【第2部門放送の部】(同上) 
    坂田記念ジャーナリズム賞(2件)

      読売テレビ「ニッポンのうた」取材班
        代表=報道局チーフプロデューサー・阿部裕一(あべ・ゆういち)
         「ニッポンのうた “歌う旅人”松田美緒とたどる日本の記憶」 

      関西テレビ「ザ・ドキュメント兄と弟」取材班   
        代表=報道センターディレクター・柴谷真理子(しばたに・まりこ)
       「ザ・ドキュメント兄と弟〜満州おもいでの河へ〜」



  第5回東日本大震災復興支援坂田記念ジャーナリズム賞(敬称略) 
 (福島、宮城、岩手の被災3県の報道機関が対象)

【新聞の部】
    東日本大震災復興支援坂田記念ジャーナリズム賞
 
     岩手日報東日本大震災取材班
       代表=編集局報道部長・神田由紀(かんだ・ゆき)
      「命の軌跡〜東日本大震災5年の一連の報道」  

   同特別賞     
       河北新報社防災・教育室   
      代表=防災・教育室長・武田真一(たけだ・しんいち)  
      「防災ワークショップ『むすび塾』の展開」  

【放送の部】    
   東日本大震災復興支援坂田記念ジャーナリズム賞
 
    NHK仙台・福島放送局取材班  
    代表=福島放送局放送部副部長・池本端(いけもと・ただし)  
      NHKスペシャル「廃炉への道」  

   同特別賞      
     東日本放送    
      代表=報道制作局報道部編集長・藤井尚弘(ふじい・なおひろ) 
     「被災地は今」「宮城のチカラ」など一連の報道
 
   注:表記順は推薦受付順

第24回坂田賞授賞理由(前半)

           第24回坂田記念ジャーナリズム賞・同特別賞
          推薦・授賞理由
      (敬称略)
 
【第1部門新聞の部】(スクープ・企画)
  坂田記念ジャーナリズム賞

    毎日新聞社「ヒバクシャ」取材班
   代表=大阪本社社会部副部長・宇城 昇(うじょう・のぼる)
    長期連載「ヒバクシャ」

〔推薦理由〕
    ヒロシマ、ナガサキは日本の報道機関が伝え続けなければならない問題だが、「8月ジャーナリズム」とも言われてきた原爆報道の在り方を変えたいと、2006年秋から記録報道「ヒバクシャ」の連載を始めた。まだ、10年の通過点に過ぎないが、オバマ大統領の歴史的な広島訪問を経て連載は209回になり、11年目に入る。
    連載は「広島、長崎の被爆者の声を、世代を超えて継承しなければならない」という、現場を担当する記者たちの熱い思いから始まった。中心は平和の尊さを問い続ける「関西・大阪ジャーナリズム」の戦争・平和報道に携わってきた記者たちで、当初は大阪と西部(福岡)で掲載されたが、12年からは東京、中部(名古屋)、北海道の全国掲載に拡大した。
    ヒバクシャの生の声が消えつつある中、被爆者の生きた記録と託された言葉を歴史に刻み、次世代に、そして世界に伝えてゆくことは日本のジャーナリズムの責務だといえる。
 
[授賞理由]                
 被爆者は英語でA-Bomb Survivorだが、毎日新聞のヒバクシャは、マスメディアがともすると時事性と読者の関心を誤解して、ヒバク問題を季節的に扱いやすいことを見直し、被爆者の心の中で何が起きているかを、文字と写真、そしてネット、英訳による国境を超えた「発信媒体」としてきたことを高く評価したい。
   連載10年という継続性は十分に評価されるべきで、この企画が「8月ジャーナリズム」を乗り越える平和報道となる可能性を示していることも注目すべきだ。今後の課題として、被爆3世、4世を含めた読者に届く紙面の工夫などが必要と思われるが、メディア企業のアカウンタビリティー(責任の自覚と責務の履行)として、坂田賞に値する。
 
【第1部門新聞の部】(スクープ・企画)
  坂田記念ジャーナリズム賞

   朝日新聞大阪本社「子どもと貧困」取材班
   代表=生活文化部長・斎藤利江子(さいとう・りえこ)
    シリーズ企画「子どもと貧困」
 
〔推薦理由〕
 6人に1人といわれる子どもの貧困の現状と課題を、朝日新聞大阪本社編集局を中心に継続的に発信してきた。貧困ゆえに多くのことを諦め、孤立しがちな子どもたちの問題は、子ども自身に罪はなく、自己責任では片づけられない社会問題だという認識に立ち、徹底したルポで多角的に現状を照らし出し、読者や専門家とともに改善策を提示してゆくことを目指した。計4回(記事15本)のルポ記事はデジタル版で1400万以上の閲覧を記録。反響は大きく、国会質疑でも取り上げられ、児童福祉法の見直しや給付型奨学金の拡大などの動きを後押ししてきた。
 16年7月からは支援や対策を考える記事を発信。給食や給食無償自治体の広がりや「子ども食堂」の現状などを調査。また、貧困世帯の高校中退問題や特別養子縁組の仕組みもとりあげ、現状を改善し、負の連鎖を防ぐ方策を考えるべく発信を継続している。16年10月には書籍を出版している。
 
[授賞理由]
  近年、さまざまなところで報道されるようになった「子どもの貧困」問題について、その多様な要因や支援などにかかわる人たちも含めた実情を、具体的な事例とともに紹介し、問題の解決策を提示するという問題意識が明確に読み取れる。調査・研究に取り組み第一線の研究者たちにも取材し、今後求められる政策の方向性を示唆していることは評価できる。地方自治体の取り組みや、地域ごとに工夫が始まっている「子ども食堂」など、近年の具体的な政策にも光を当てており、報道を通してこうした政策が普遍的なものとして制度化される気運となることを期待できる。 
   子どもの貧困問題はこれまでも繰り返し報道されており、切り口の斬新さは少ないが、この連載が一定程度は世論を動かしたことを正当に認めるべきで、連載だけでなフォーラム面などを通して論議を深めていった点は高く評価できる。

【第1部門新聞の部】(スクープ・企画)
    坂田記念ジャーナリズム賞特別賞

    読売新聞大阪本社「老い 2016」取材班
    代表=編集局次長・滝北 岳(たききた・がく)
    シリーズ連載企画「老い 2016」
 
〔推薦理由〕
   日本は現在、未曽有の超高齢社会になりつつある。総人口に占める65歳以上人口(高齢化率)は5%だった1995年から右肩上がりを続け、2020年に29%に。老いとは何か、超高齢社会がいかなるものか、対処の方法はあるのか、長い老後との付き合い方は、あるいは老いに絡むビジネスは…マイナスイメージだけではなく、多様な切り口から「老い」を読み解く狙いで「老い2016」のワッペンで年間32本の記事(連載、特集)を主に社会面で掲載した。
    留意したのは記者の専門性だった。テーマごとに、もっとも関連性の強い部を中心に取材チームを組み立てた。「孤立」がテーマの第1部は社会部、「健康長寿」の第3部は科学医療部と運動部、「マネー」の第4部は経済部がそれぞれ担当。部内にチームを作って取材した。さらに、高齢問題を扱う生活教育部が全体的な助言を行い、第2部と第5部は編集局全体で取り組んだ。多くの反響が寄せられたが、「老い」は広く深いテーマであり、読売新聞大阪本社は今後も「老い」の取材を続けていく。
 
[授賞理由]  
   明瞭な処方箋もないまま、日本は超高齢化社会に突入しつつある。読売新聞大阪本社の連載は、「孤立」「8050問題」「健康長寿」「スマートシニア」「マネー」「安住の地」など、老いが直面する課題を現場の声を紹介しつつ多角的に探っている。高齢になって新たな生き方を選択する人々も登場している。シニア海外ボランティアでタイに在住する男性、徳島の山村に移住した夫婦、丹波地方で百歳を過ぎて元気に暮らす老婦人など、印象に残る。老いの問題とは、つまるところ個人の生き方の選択であると教えてくれる。
  高齢化社会の切り口として、社会ではなく、高齢者個々をどうささえるのか、あるいは高齢者自身がどう生き抜くのかという視点からの取材に、新鮮さと、取り上げるテーマに広がりを感じさせる報道で、評価できる。

 
【第1部門放送の部】(スクープ・企画)  
   坂田記念ジャーナリズム賞

  毎日放送「映像’16」取材班
      代表=報道局番組センターディレクター・橋本佐与子(はしもと・さよこ)
       「がんとお金〜夢の薬の光と影〜」

 〔推薦理由〕

  日本人研究者の発見をきっかけに開発され、大阪の製薬会社が製造・販売に携わったがんの新しい治療薬として注目される「オプジーボ」だが、1年間使い続けると約3500万円もかかり、このままでは「国を滅ぼす薬」になりかねないと指摘する現場の医師もいる。 
   番組はオプジーボの効果と価格をめぐる問題についていち早く取材を始め、免疫チェックポイント阻害剤という薬の仕組みを解説するとともに、がん治療のエキスパートといわれる近畿大学医学部腫瘍内科に1年半にわたって密着。効果と副作用について丹念に取材した。オプジーボをきっかけに従来の薬価制度を見直し、異例の緊急値下げに踏み切る国の動きを真っ先に報道した。 
   報道のあと、オプジーボは半額に値下げされたが、国民医療費が41兆円を超える今、現場の医師たちも問題意識を持ち始めている現状を、一つの画期的な薬を通して伝えた。
 
〔授賞理由〕 
    急速に進む高齢化とも関連し、国民健康保険の公的資金で賄う膨大な医療費が大きな問題になっている中、大きな割合を占める薬について、使用手法や薬価の見直し論議も緊急課題になっている。
   しかし、医療と投薬・薬価の問題は、専門知識がなくては理解が難しいテーマであり、メディアがわかりやすく視聴者に伝えるには工夫が求められる。その点、この番組はグラフィックなどをうまく使い、わかりやすく視聴者に問題の本質を問いかけている。また、放送後にオプジーボの価格を下げることが決まったが、この番組が世論に一定の影響を与えたものと考えられる。重要な国民的課題の論点を整理した作品として高く評価できる。


  【第1部門放送の部】(スクープ・企画)
    坂田記念ジャーナリズム賞

    NHK大阪放送局取材班 
   代表=報道部チーフプロデューサー・三村忠史(みむら・ただし) 
        NHKスペシャル「ある文民警察官の死〜カンボジアPKO23年目の告白」
 
〔推薦理由〕 
    安全保障関連法案の成立で、PKOによる駆けつけ警護が可能になり任務の烈度が増大するとみられるが、過去に日本が参加したPKOの内実はほとんど検証されていない。23年前、本格的に参加したカンボジアPKOに派遣された文民警察隊が武装勢力に襲撃され1人が死亡、5人が重傷を負った事件は、隊員たちに箝口令が敷かれ、公の発言は許されなかった。
  現地で何があったのか。取材班は隊員、政府関係者、他国のPKO部隊から多くの証言を収集するとともに、内部資料も発掘。そこから見えてきたのは、名ばかりの「停戦合意」の実態と、PKO法に反してでも護衛のために武器を購入せざるを得なかった隊員らの現実だった。一方で政府は停戦合意は崩れていなかったとの立場をとらざるをえなかった。 
    番組は視聴者に大きな反響を呼び、南スーダンに派遣される陸上自衛隊の部隊でも広く録画番組が見られたとされる。
 
[授賞理由]  
    カンボジアPKOで文民警察官が銃撃され死亡した事件はもはや遠くにぼんやりと霞んでいる。23年の歳月というだけではなく、事件の詳細を伝える報道が乏しかったのも一因だろう。この番組は、派遣隊員、他国部隊、政府関係者、さらには最後まで抵抗していたポルポト派側の元准将らの証言や新たに発掘した内部資料で、知られざる事件の全容を解明していると思える。
  「今も整理できない、すべてではない」「肩代わりさせて他国の隊員が重傷を負った」など生々しい隊員の証言は、「国際貢献」「人的貢献」とは何なのかと問いかける。慎重な調査の積み重ねと事実の発掘、CGによる再現など、事件を知らぬ人にも分かりやすい内容であり、高く評価できる。

【第1部門放送の部】(スクープ・企画)
  坂田記念ジャーナリズム賞特別賞
 
    朝日放送報道局取材班
  代表=ABCリブラ/ディレクター・漁野紗希(りょうの・さき)
         報道番組「勇(いさ)鯨(な)〜揺れる太地町〜」
 
〔推薦理由〕
  古い伝統に根ざす太地町のクジラ漁が、捕鯨反対の外国団体等による批判の的になって久しい。苦悩する地元の人たちの思いを伝えたいと取材を始めたのは、クジラ漁に由来する「漁野」という姓を持ち、故郷の太地町を見続けてきた記者。明るかった故郷の変貌を肌で感じ、太地町に通い、マスコミに不信感を抱く人々の住む町内を歩き回った。
 「1年間密着する気持ちがあるなら、取材に応じてもいい」と、ようやくクジラ・イルカ追い込み漁師から声をかけられ、やがて他の漁師も心を開き始めた。報道機関として唯一、漁船への乗船が許された。その結果として、番組は漁師が置かれている状況や、その周囲の人々の考え、反捕鯨団体の行動の変化などを描き出している。400年余の伝統文化を守ることと、生き物の命を奪う仕事の狭間での苦悩を引き出しており、捕鯨問題を考えるうえで重要な内容になっている。
 
〔授賞理由〕 
    反捕鯨団体などから「残酷だ」という批判と激しい抗議活動を受けてきた太地町の漁師たちは、これまでマスメディアの取材に対しても積極的な姿勢ではなかったが、それが変わり始めたことを番組は伝えている。古代捕鯨の発祥地として、捕鯨文化や食文化を受け継ぐという思いとともに、稼ぎのよい仕事だったという、捕鯨の経済的側面も明らかにされる。地元への影響や、生き物を殺す行為への抵抗など、漁師たちの苦悩が、写経や仲間の励ましに涙する姿などから生々しく伝わってくる。 
    漁師たちからも、また反捕鯨団体シーシェパードのメンバーからもマスメディアに対する不信の言葉が語られているが、後者がネットで映像を配信する活動を続けていることと合わせ、メディアの役割に対する問いかけも含まれていると感じる。地元ゆかりの記者個人と漁師の信頼関係が作り出した価値ある作品だ。

第24回坂田賞授賞理由(後半)

【第2部門新聞の部】(国際交流・貢献報道
    該当なし
 
【第2部門放送の部】(国際交流・貢献報道)
   坂田記念ジャーナリズム賞

   読売テレビ「ニッポンのうた」取材班
    代表=報道局チーフプロデューサー・阿部裕一(あべ・ゆういち)
     「ニッポンのうた “歌う旅人”松田美緒とたどる日本の記憶」
 
〔推薦理由〕
    名もない人々が歌い継ぎ、年月に磨き抜かれた日本の各地に伝わる古い歌を捜し、今に甦らせている京都市在住の歌手・松田美緒さん(36)と、歌のルーツを探るとともに、歌を巡る壮大な物語を描く。徳島の秘境・祖谷の「木びき唄」。秋田のマタギの里に伝わる山の神への祈りの歌。長崎の隠れキリシタンの島に残る不思議な歌。ミクロネシアから伝わった日本占領下の恋の歌「レモングラス」。松田さんが今伝えなければ消えてしまうかもしれない歌を、次世代に伝えることの意義を伝えた。
  放送後、歌そのものの素晴らしさに加え、その背景に浮かぶ美しい風景や暮らしや歴史に、視聴者から大きな反響が起き、新聞や雑誌でも取り上げられた。時を超え、国境を越えて歌い継がれる歌の魅力を通して、日本の文化や歴史を見つめ直し、世界に発信する契機にもなった。
 
[授賞理由]  
    坂田賞第2部門は「国際交流・貢献報道」が対象だが、この作品は「“歌う旅人”松田美緒」の活動をたどりながら、歌をとおして、日本の国境と時代のセグメントを超えてつなぐ秀作といえる。歌にはメロディーと歌詞があり、両者が密接に噛みあった時、それに接する人に情報だけではなく感情と情緒のレベルで共感を作る。その共感が世代と国境を越えて人々を繋ぐ時、地理や歴史を超えた絆となる。その意味でこの作品は多様な価値観を超えた意味を持っている。
  同時に松田さんの魅力が十二分に生かされた演出になっており、日本文化の伝統と広がりをわかりやすく伝えている点も見逃せない。パラオでの「レモングラス」の取材も丁寧であり、松田さん自身が国際交流を体現している、素晴らしい作品といえる。
 
【第2部門放送の部】(国際交流・貢献報道)
   坂田記念ジャーナリズム賞   

     関西テレビ「ザ・ドキュメント兄と弟」取材班 
       代表=報道センターディレクター・柴谷真理子(しばたに・まりこ)
       「ザ・ドキュメント兄と弟〜満州おもいでの河へ〜」
 
〔推薦理由〕
   太平洋戦争中に満蒙開拓団に加わり旧満州に渡った京都出身の黒田家族の兄・雅夫さんと弟・孝義さん。そして迎えた敗戦。困窮した母は孝義さんを中国人に預けた直後に死去。兄の雅夫さんはキリスト教関係者に助けられて帰国したが、孝義さんは1980年に帰国するまで中国で暮らしていた。帰国後、母国で直面した言葉や文化の違いから心を閉ざした弟と疎遠になった兄は、もっと弟と分かり合いたいと願い、弟を中国の旅に誘った。
   戦争をきっかけに日本と中国で別々の時を生きた兄弟を通して、戦時中の日本、今の日本の在り方、日中の文化の違いなどをみつめることで、現在の日本と中国が見える報道ドキュメンタリーだ。
 
[授賞理由]  
   戦争は権力者たちの利権争奪から起きることが多いが、日本の場合は「なぜか止められずにそうなってしまった…」と述べた無責任な直接関係者のインタビューが残されている。一方、犠牲になった人々は情報的にも分断されていた。たとえば日露戦争時代から日本が旧満州地域を蹂躙していた現実などだ。満州事変以降の中国侵略についても日本では対立した解釈があるが、この番組は国家主義的な論議から抜け落ちやすい個人レベルにまで降りて訴える秀作だ。 
   残留孤児問題については多様な描き方があるだろうが、「兄と弟」はその家族まで含め4世代の歴史を丁寧に扱っている。兄弟のわだかまりが、記憶の場所で解けてゆく最終シーンは、孫少女の明るさともダブって、重いテーマを扱いながら後味の良い作品になっている。



第5回東日本大震災復興支援坂田記念ジャーナリズム賞
     授賞理由

 
【新聞の部】
   東日本大震災復興支援坂田記念ジャーナリズム賞
 
        岩手日報東日本大震災取材班
    代表=編集局報道部長・神田由紀(かんだ・ゆき)  
            「命の軌跡〜東日本大震災5年の一連の報道」
 
[推薦理由]
   東日本大震災から5年の節目に命を守る教訓を伝えることが地方紙の最大の使命と遺族2400人に再取材し、「未来に遺訓を残したい」という遺族らの思いを結集させた。具体的には「震災犠牲者の行動記録」と「てんでんこ 未来へ」などの連載で前者では地震発生時と津波襲来時にいた場所が分かった犠牲者1326人の避難行動を地図上で再現、遺族の了解が得られた687人は実名で掲載した。
    分析の結果、低地に向かう人や「津波はここまで来ない」と自宅にとどまる人が多く、避難場所の設定や経験の過信などの問題点を浮き彫りにした。首都大学東京と共同でデジタルアーカイブでも再現、これを英語やインドネシア語でも世界に発信した。「てんでんこ」は「津波の際はばらばらに逃げる」という意味の三陸に伝わる言葉だが、「家族を助けられなかった」など否定的に捉える遺族も多く、実践できなかった地域や学校、災害弱者の現場などを取材、「生」への強いメッセージと再定義した。今後も遺族とつながる姿勢を柱にして紙面展開したい。
 
[授賞理由]
    「てんでんこ」という昔から伝わる言葉をキーワードに東日本大震災の経験から将来に引き継いでいかねばならないことは何か、を考えて読者に訴えている。この方針から犠牲者たちのその時の行動を丹念に取材した“手仕事”ぶりが伝わってくる。震災から受け取るべき教訓を深化させた意義も大きい。
    また同じ大津波に襲われ、多くの犠牲者を出したインドネシアなどにも足を運んだ。被災した経験、思いに立って発信される地域メディアならではの報道内容がより広く多くの人の心に届くことを期待したい。



東日本大震災復興支援坂田記念ジャーナリズム賞特別賞   
      河北新報社防災・教育室   
          代表=防災・教育室長・武田真一(たけだ・しんいち)  
          「防災ワークショップ『むすび塾』の展開」
 
[推薦理由]
    河北新報は、従来の防災報道では救えない命があったとの反省の上にたち、情報を伝えて備えを「呼びかける」だけでなく、地域に深く入り込んで備えを「働きかける」ことが必要と全国の災害予想地域に紹介し、地元紙、放送の共催する防災ワークショップ「むすび塾」を2012年5月から立ち上げた。14年6月の北海道釧路市(北海道新聞)から16年11月の愛知県碧南市(中日新聞)までこれまで計8回実施している。10人前後の集まりで専門家と震災を振り返り、被災者3、4人にも参加してもらうもので一般向けの講演会も開き、詳報紙面や番組を組み、各地域で震災の伝承と教訓の共有を図ってきた。
    この取り組みは災害犠牲者をなくすために何が出来るか、「報道の役割」を広く捉えなおし、震災・防災報道の新しい地平を切り開くもので、16年4月には新設の防災・教育室と報道局が協力し合う組織改革も実現した。
 
[授賞理由]
    災害報道の目的は事前の備え、最中の迅速正確な情報提供と避難援助、事後の救援・救済活動と復旧・復興支援情報の提供と検証である。これを「メディアの減災活動」と言ってもよい。それには紙・電波・ネットという媒体を超えた情報提供と周知が必要であり、河北新報が3・11大震災(地震、津波、原発事故)の経験を踏まえ、全国のブロック紙、地方紙や放送局、大学などと協力、「むすび塾」を展開し始めたのは防災、減災の新しく、かつ有効なメディア企業の仕事として意欲的な試みと言える。

【放送の部】   
  東日本大震災復興支援坂田記念ジャーナリズム賞

     NHK仙台・福島放送局取材班  
     代表=福島放送局放送部副部長・池本端(いけもと・ただし) 
           NHKスペシャル「廃炉への道」
 
[推薦理由]
    40年とされる福島第一原発の廃炉作業。技術的な困難があらわになる中、もう一つの困難が明らかになってきた。事故に伴うコストの問題だ。廃炉だけでなく賠償や除染の責任を負う東京電力。三つの費用が膨張する中、その負担は電気料金や税金などの形で国民に転嫁されてきた。なぜ、コストは膨らみ続けるのか?
    取材班は東電の会計資料や国の内部資料を入手して分析したが、政府発表を上回るコストの実態が分かってきた。放射性物質が漏えいするたび、追加の安全対策や工期延長が迫られる廃炉現場。予期せぬ作業の発生で当初計画の8倍もかかったケースもあった。こうしたコストの7割が国民に転嫁されていることも判明。なぜ東電が負担すべき責任を国民が負担するのか。政策決定に携わった当事者への取材からは東電をつぶさない、という選択を出発点に次々と場当たり的な対応が迫られてきた実態が浮かび上がってきた。番組では廃炉と福島復興を実現するため、国民に十分な説明をし、理解を求めることを訴えたが、放送後、国が事故コストの総額を実態に即して見直すなど、社会を動かすことにもつながった。
 
[授賞理由]
    福島第一原発の廃炉に至る諸問題をカネという問題に焦点を当て、解剖解析している。廃炉、賠償、除染・・・費用は膨れ上がりそのまま合算すれば東電は債務超過でつぶれる。ひねり出された知恵が電気料金や税金に転嫁するという、知られざる闇のカラクリを内部資料などによって明るみに出し、分かりやすかった。40年とされる廃炉工程が次世代への負の遺産として残されることの問題点を印象的に表現したラストも国民一人ひとりに考えさせようとする姿勢がよく伝わってきた。粘り強い取材の成果だ。   


      東日本大震災復興支援坂田記念ジャーナリズム賞特別賞      
      東日本放送      
       代表=報道制作局報道部編集長・藤井尚弘(ふじい・なおひろ)  
           「被災地は今」「宮城のチカラ」など一連の報道
 
[推薦理由]
    2011年のあの日を境に我々の取材活動は大きく変わった。被災地のテレビ局としてこの大震災を伝え続ける、そしてそのことが復興を後押しすると信じて。地域の現実と課題を伝える「被災地は今」では、防災集団移転、水産業・農業の再生などをテーマに放送は159本を数えた。「宮城のチカラ」では家族を失いながらも前に踏み出した被災者や被災者同士のつながりにスポットを当て、15年3月以来、134本を放送。16年3月11日からは平日に毎日放送。同5月からは「5年の今」のタイトルで月命日に放送を続けている。あの日何があったのか伝える番組で、震災の風化防止につなげようという試みだ。
 
[授賞理由]
    シリーズ企画の中で「被災地は今」は自立を果たしつつある今だからこそ直面している課題を提起している。災害公営住宅での孤立やコミュニティー作り、水産業の人手不足などハード面では復興が進んでも人に関わる問題は容易に解決しないことが克明に描かれている。シリーズ全体にあの震災の記憶を風化させず、今後の防災、地域復興に結び付けたいという地元局としての使命感が伝わる報道だ